産業医になるための資格・要件
ここまで、産業医とは何か、産業医は通常の医師とどのように違うのか、産業医の選任義務はどうなっているのかという点について解説してきました。ところで、そもそも産業医にはどうやったらなれるのでしょうか?
ここからは、産業医になるには医師免許を持っていることの他に、どのような要件を満たす必要があるのか、詳しく説明をしていきたいと思います。
産業医の要件は、『労働者の健康管理を行うために必要な医学に関する知識について、厚生労働省令で定める要件』を備える者、と規定されており、具体的には以下5つの方法のうち、いずれかを満たす必要があります。
つまり、産業医になるためには、医師免許を取得した上でさらに、これら5つの中からいずれかの要件を満たし、労働者の健康管理に必要な医学に関する知識を備える必要がある、ということになります。
産業医研修とは、日本医師会が開催している研修の事を指します。正式には、日本医師会認定産業医制度に基づく基礎研修会という名前の研修で、次の3種類の研修をそれぞれ必要な単位、取得することが必要になっています。
① 前期研修(14単位以上):総論、健康管理、メンタルヘルス対策などについて
② 実地研修(10単位以上):職場巡視などの実地研修、作業環境測定実習など
③ 後期研修(26単位):地域の特性を考慮した実務的、やや専門的、総括的な研修
①~③を合計50単位以上取得する必要があります。ちなみに1単位は60分の研修となっているので、臨床医のお仕事をされながらの単位取得となると臨床業務との両立が困難であるケースもありそのような方は、産業医科大学をはじめ一部の医師会で行われる、一括で単位を取得できる研修会に参加する事で例えば6日間で必要な50単位を取得する事も出来ます。。
ここまでは、産業医になるために受講しなければならない講座について、説明をしてきました。ここからは、産業医になるための方法の3つ目に挙げた、労働衛生コンサルタントについて詳しく説明していきます!そもそも、労働衛生コンサルタントという単語を聞いたことはあるでしょうか?どこかで聞いたことはある人でも何をする人なのか、どんな資格なのか、あまり知られていないのではないでしょうか。ここから詳しく説明していきます。
まずは労働衛生コンサルタントの仕事内容について簡単に説明します。労働衛生コンサルタントのお仕事は、労働者の衛生水準の向上のために、事業場の衛生についての診断と、それに基づく指導を行う者、と法律で定められています。
では次に、労働衛生コンサルタントになるためにはどうしたらよいのか、説明していきます。そもそも労働衛生コンサルタントとは国家資格であり、厚生労働省労働が実施している試験に合格することで、取得することができます。
また、試験を受験するためには、医師や薬剤師、保健師であることや実務経験が一定年数以上あることなど、受験資格を満たす必要があります。詳しくは試験を実施している安全衛生技術試験協会のHPなどもご参照ください。
労働衛生コンサルタントの資格を得るためには、受験資格を満たした上で、一次の筆記試験と二次の口述試験に合格しなければなりません。安全衛生技術試験協会によると、合格率は例年30%前後となっており、難易度は高めと言えます。
試験は、保健衛生と労働衛生工学の二つの区分に分かれていて、どちらか一つを受験します。どちらも一次の筆記試験は3科目で、労働衛生一般と労働衛生関係法令の科目は選択、各区分で選択する科目は記述式の試験となっています。
二次試験は口述試験となっていて、二つの受験区分に共通した労働衛生一般科目と、各区分の専門科目として、健康管理か、労働衛生工学に関する科目を受験します。
最近では健康経営への注目が高まっているため、労働衛生コンサルタントの資格を持っている産業医が、企業から高く評価される傾向にあり、実際に受験者数は増えてきつつあるようです。
ここまで産業医になるための方法の中でも産業医研修と労働衛生コンサルタントについて説明してきました。ここからは実際に産業医がどんな仕事をしているのか、詳しく説明をしていきたいと思います。
産業医の仕事内容
ここまで、産業医の役割や通常の医師との違い、産業医になるために必要な資格・要件、などについて簡単に説明してきました。では具体的に産業医はどのような仕事をしているのでしょうか?ここから詳しく説明していきます。
労働者の健康管理を担っている産業医の職務は、労働安全衛生法によって次の9つに分類されています。
①健康診断の実施とその結果に基づく措置
②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
④作業環境の維持管理
⑤作業管理
⑥上記以外の労働者の健康管理
⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
産業医はこれらの職務に加え、実際の労働者の状況を把握するために、定期的なの職場巡視と衛生委員会への参加などを行っています。50人以上の従業員をもつ事業場の事業主は、産業医を選任し、こうした業務をさせる必要があるのですが、具体的な業務については業務頻度毎に以下の表のように分類されます。
ここからは、これらの項目に基づいて産業医が行う具体的な業務について、さらに詳しく説明していきます。
産業医も参加する衛生委員会って何?
ここからは産業医も参加する衛生委員会について説明してきます。
そもそも、衛生委員会とは、産業医の選任が必要な規模の全ての業種の事業場において、設置と毎月の開催をしなければならないものと法律で定められています。具体的な委員会の目的や産業医の位置づけについて、さらに説明していきます。
衛生委員会は全ての業種において、産業医を選任する必要がある規模の事業場で設置する必要がありますが、安全委員会は例えば林業や鉱業、建設業といった業種ごとに、転倒転落や腰痛などの労働災害を予防するため設置基準が異なります。
また、衛生委員会では産業医も構成メンバーですが、安全委員会には含められていないという違いもあります。ここからは全ての業種で、一定以上の規模の事業場に設置しなければならない衛生委員会について、さらに説明をしていきます。
衛生員会、調査・審議される内容については、法律で次のように定められています。
①衛生に関する規定の作成に関すること
②衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること
③衛生教育の実施計画の作成に関すること
④定期健康診断等の結果に対する対策の樹立に関すること
⑤長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
⑥労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
つまり、労働者が心身共に健康で働き続けられるように、衛生面で必要となる対策について審議されるのが衛生委員会、と言えます。具体的には、過重労働者の数や、健康診断の結果に基づいて就業上の措置が必要となった労働者の数、ストレスチェックにおいて高ストレス者になった従業員の数などについて取り上げられることがあります。
こうした衛生委員会において、産業医は医学の専門家として、職場の衛生状態を維持向上させるような助言や対策の提案をすることが求められています。例えば、インフルエンザ対策やメンタルヘルス対策などが挙げられます。
ここまで衛生委員会について説明をしてきました。衛生委員会では労使が一緒になって、健康診断の結果や長時間労働、メンタルヘルス対策など事業場の衛生に関する調査審議を行っていることがお分かりいただけたかと思います。
では、具体的に従業員のメンタルヘルス対策について、産業医は衛生委員会への参加のほかにどのような業務を担っているのでしょうか?次のセクションでは産業医が行う健診結果の就業判定について詳しく説明します!
健康診断結果の就業判定って何?よくある誤解について解説
さて、産業医が行う職務のうち健康診断の結果に基づく就業判定、について説明します。健康診断の就業判定では、産業医は健康診断後の結果を元に、就業区分(通常勤務、就業制限、要休業)の判断を行ないます。その上で従業員に対して就業上の措置が必要と判断した場合には意見書を述べます。就業上の措置は、例えば就業場所や作業内容の転換、労働時間の短縮、専門機関での治療や休職などの措置が挙げられます。
稀に誤解がある点として、健診の結果表に載っている判定を持って就業判定をしてもらっているという誤解がありますが「医療判定(≒病気であるかどうかの判定)」と「就業判定(≒これまでと同じ働き方で問題ないかの判定)」は別物である事に注意が必要です。
また、健康診断結果の就業判定については50人未満の事業場においても義務となっている点も注意が必要です。産業医の配置や衛生委員会の開催など事業場の労働者数が50人を超えると義務となる事項が多いのですが、健康診断の就業判定については50人未満の事業場でも事業者の義務となります。
弊社の産業医ドットコムにお問合せ頂くケースでも「就業判定と医療判定の違いを知らずに就業判定自体を実施していなかった」「50人以上の拠点のみしか就業判定をおこなっていなかった」等の状況で労基署から指摘を受けてお問合せ頂いた事例が多数あります。健診の就業判定のみを対応してくれる医師をお探しする事も出来ますのでお問合せください!
社員のうつ予防にも!産業医によるメンタルヘルス対策とは?
さて、ここからは近年注目度が増している、職場におけるメンタルヘルス対策について取り上げていきます。産業医によるメンタルヘルス対策とは、具体的にはどのような業務を担っているのか、説明していきます。
近年、経済・産業構造が変化する中で仕事に関して強い不安やストレスなどを抱える労働者が増加しています。この状況を受けて、日本ではメンタルヘルス対策に力が入れられるようになりました。
厚生労働省は、職場のメンタルヘルス対策を進めるためには、4つのケアが重要であるとしています。その4つのケアとは、次の通りになっています。
①(労働者による)セルフケア
②ライン(管理監督者)によるケア
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
④事業場外資源によるケア
産業医によるメンタルヘルス対策は、ここでは③の事業場内産業保健スタッフ等によるケアにあたります。では、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。ここから詳しく説明していきます。
産業医によるメンタルヘルス対策には、例えば事業場外資減(専門の医療機関や地域産業保健センターなど)とのネットワーク作りや、復職支援のケースにおいて、労働者との面談や主治医・人事担当者との連携などが挙げられます。
また最近、ストレスチェック制度という言葉を耳にしたことのある人も多いのではないでしょうか。このストレスチェック制度も、職場のメンタルヘルス対策の中では重要な位置づけになっており、産業医に求められる役割も大きいです。
ストレスチェック制度は2015年の労働安全衛生法の改正で新しく始められた制度です。この制度によって、事業主は年一回、従業員の心理的な負担を把握する検査(ストレスチェック)の実施が義務づけられました。
ストレスチェックを実施した後、先にも述べたように、労働者によるセルフケアを促すため、結果は全て労働者へ返却されます。そのうち、高ストレスと判定された従業員は、産業医との面談を希望することができます。
高ストレスと判定された労働者が産業医面談を希望した場合、事業主を通して産業医へ面接が依頼されます。
こうして高ストレス者との面接を実施した後、労働時間の短縮や配置換えなど、職場側で措置が必要となった場合、産業医は事業主にその内容を報告します。
ここまで産業医による職場のメンタルヘルス対策について、4つのケアがあることや、ストレスチェックを元に、産業医から労働者個人へ行われるアプローチなどを説明してきました。